日本酒とひと口にまとめても、さまざまな種類がありますよね。
「大吟醸(だいぎんじょう)」という名前なら、日本酒を飲まない人でも知っているかもしれません。
ですが、ひやおろし、生酛仕込み、薫酒と矢継ぎ早に並べられても「???」となる方がほとんどではないでしょうか。
実は、日本酒は材料の違い、製造工程の違い、登場する時期などによってそれぞれ別々に種類が分けられます。
その結果、小倉百人一首に登場する「法性寺入道前関白太政大臣」みたいなことになっています。
※ちなみにこの方は「藤原 忠通(ふじわら の ただみち)」というお方らしいです
そこで、今回は、日本酒をもっと楽しむために「種類」についてご紹介していきます。
うまく情報を整理することができれば、そんなに難しいことではないので、1つひとつ噛み砕いていきましょう。
大吟醸は「材料」の種類をランク分けしたもの
さきほど登場した「大吟醸」は日本酒を作る「材料」の違いを分けたもの。
この、材料の違いによって分けられる種類のことを「特定名称」と呼んでいます。
日本酒の種類、いわゆる特定名称は下の表のように分けられています。
●特定名称酒の分類一覧
特定名称 | 使用原料 | 精米歩合 |
---|---|---|
純米大吟醸酒 | 米、米麹 | 50%以下 |
純米吟醸酒 | 米、米麹 | 60%以下 |
純米酒 | 米、米麹 | - |
特別純米酒 | 米、米麹 | 60%以下または特別な製造方法 |
大吟醸酒 | 米、米麹、醸造アルコール | 50%以下 |
吟醸酒 | 米、米麹、醸造アルコール | 60%以下 |
本醸造酒 | 米、米麹、醸造アルコール | 70%以下 |
特別本醸造酒 | 米、米麹、醸造アルコール | 60%以下または特別な製造方法 |
特定名称の違いは主に、原材料であるお米をどれだけ削ったかということと、醸造アルコールを使っているかどうかという2点。
材料といってもどの種類のお米を使っているかとか、米、麹、水の配合をどうしているかということではありません。
純米酒に使われるのは米と米麹
「純米」と名のつく日本酒は、米と米麹、そして水。
この3種類の原料しか使われていません。
純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒と呼び方は分かれていますが、使用している原料はまったく変わりません。
違うのは精米歩合。つまり、米をどれだけ削ったかということになります。
米は削ればおとなしくなる?
なぜ米を削るのかというと、表面ほど雑味が強くなるからです。
つまり、削れば削るほど、雑味の少ない、飲みやすいお酒になるということ。
飲みやすく、華やかな香りを漂わせる「純米大吟醸酒」を作るには、高い精米歩合のお米が必要になるのです。
ただし、削るということは、その分原材料が少なくなるということ。
精米歩合50%以下ということは米の大きさはもとの半分。
つまり、純米大吟醸酒を造るためには純米酒よりもかなり多くのお米が必要となるのです。
「良いお酒は水みたいって言われる」
というのは、高いお酒ほど精米歩合が高く、飲みやすくなるということなんです。
醸造アルコールって混ぜ物なの?
純米酒ではない日本酒には「醸造アルコール」というものが使われています。
名前だけ見ると得体の知れないアルコールでかさ増ししているように感じられるかもしれません。
事実、大吟醸酒の方が、純米大吟醸酒よりも価格が安い印象がありますよね。
醸造アルコールは、焼酎と同じ成分のアルコール。
梅酒を作るために梅を漬けるのに使う植物性のアルコールも醸造アルコールです。
だから、決して得体の知れない価値の低いアルコールと言うわけではありません。
これを混ぜることによって得られるメリットは4つ。
- 純米酒に比べて後口のキレがよくなる
- 日本酒の香りが高くなる
- お酒が傷みにくくなる
- 価格が安くなる
醸造アルコールを適量を投入することにより、日本酒の味や香りに個性を与えているのです。
単純に、安くて飲みやすい日本酒が作れるということもあり、中には純米大吟醸酒よりも大吟醸酒の方が好きという方も少なくないかもしれません。
日本酒を味と香りによって4つのタイプに分類
いくら精米歩合によって傾向が分かれるといっても、実際には原材料となるお米や水の種類も違えば製造方法も違います。
また、中には何年も熟成された「古酒」と呼ばれるものもあり、特定名称だけで日本酒の味や香りを判断するのは難しくなっています。
そこで登場したのが味と香りによって日本酒を分類する4つのタイプ。
その名も「日本酒の4タイプ分類」です。
そのままやんけ!
まぁ、でも、そうでなくても日本酒の呼び方はいろいろあり過ぎるので、分かりやすくてよかったです。
薫酒|華やかな香りと飲みやすさが特徴
花や果実に例えられる華やかな香りと、上品で大人しいフルーティーな味わいが特徴。
今、日本酒の中で最も注目されている「大吟醸」「純米大吟醸」が多いのもこの種類です。
爽酒|スッキリ爽やかで飲みやすい!
淡麗辛口と言えば分かりやすい、誰もがサラッと飲めてしまうのが特徴の爽酒。
日本酒の中ではこの爽酒に分類されるものが最も多く、そのまま飲んでも料理に合わせても生きる万能型です。
醇酒|ある意味最も日本酒らしい種類
原材料である「お米」の旨みやコクを感じられる芳醇な日本酒が多いのが特徴です。
常温や熱燗などで楽しむことも多く、料理と合わせて楽しむことでより相乗効果を得られやすいのも魅力のひとつです。
熟酒|好き嫌いの分かれる変わり者
その年に作って出荷される日本酒の中にあって「熟成」の道を選んだ変わり種です。
ドライフルーツやスパイスに例えられる香りと独特な味わいは、好き嫌いが真っ二つに分かれます。
≫日本酒を味と香りで4つに分類。薫酒・爽酒・熟酒・醇酒の特徴とは?
火入れのタイミングによって4種類に分かれる
日本酒は、貯蔵前と出荷前に、それぞれ1回ずつ火入れをします。
これは、温度を上げることによって殺菌効果や品質の安定をはかることをを目的としています。
●火入れによる分類
分類 | 貯蔵前火入れ | 出荷前火入れ |
---|---|---|
通常の日本酒 | ○ | ○ |
生酒 | × | × |
生貯蔵 | × | ○ |
生詰 | ○ | × |
火入れをしていないお酒には、すべて「生」という表記がされています。
生酒は完全に火入れをしていない日本酒、生貯蔵は貯蔵前、生詰は出荷前に火入れをしていないという意味になります。
生酒|火入れをしないフレッシュなお酒
生酒は、製造から出荷までの過程で一度も火入れをしない日本酒です。
「品質を安定させる」加熱処理をまったくしていないため、よく言えばフレッシュで若々しい、悪く言えば安定感に欠ける味わいになります。
瓶に詰められて製品化された後も品質が変わりやすく、貯蔵期間や貯蔵法によって味も変化してしまう可能性があります。
おいしく飲むためには冷蔵し、開栓後はなるべく早く飲み切ることをおすすめします。
生貯蔵|貯蔵中も熟成が進む独特な味わいのお酒
生貯蔵酒は、火入れをせずに貯蔵し、出荷前に一度だけ火入れを行なう日本酒です。
火入れをせずに貯蔵する期間が長いため、生貯蔵酒には独特の風味が含まれています。
生酒独特のフレッシュな味わいと、まろやかな口当たり、そしてふくよかな味わいなどが特徴です。
保存に関しても、出荷前に火入れをするため生酒ほど気を使わなくてもよい点もメリットのひとつです。
とは言え、一般的な日本酒に比べると品質は変化しやすいので注意してください。
生詰|貯蔵前に火入れをする安定感のある味わい
貯蔵前に火入れをし、出荷前には火入れをしない日本酒のことを生詰と呼んでいます。
二度目の火入れをしないことで、生酒同様フレッシュな味わいになります。
さらに、貯蔵前に火入れをすることによって品質が安定し、落ち着いた味の日本酒になることが多いです。
外気温が低く、火落ち菌が繁殖する危険性の少ない秋のお酒「ひやおろし」は、生詰が最も生きる日本酒とも言われています。
≫日本酒の火入れとは?生、生詰め、生貯蔵の違いを見極められる人になろう
日本酒の絞り方によっても種類が違う
日本酒にはもろみを酒袋に入れ、圧搾濾過する工程があります。
酒税法によって清酒にはかならず「こす」工程を必要としているため、どぶろく以外のすべての日本酒が必ず「濾過」されています。
この濾過の中で絞り出される原酒の段階によっても呼び方が変わります。
と言っても、圧搾の段階ごとに分けられているだけで、もろみから抽出される日本酒の何パーセントまでがあらばしりといった具合に分けられているわけではありません。
●搾りかたによる分類
分類 | 搾りかた |
---|---|
あらばしり | 一番最初に出てくる部分 |
中取り | 中間に出てくる部分 |
責め | 最後に出てくる部分 |
雫酒(袋吊り) | 搾らず一滴ずつ集める方法 |
荒ばしり|希少価値の高い高級なお酒
荒ばしりというのは一番最初に出てくるお酒のこと。
主に、もろみに圧をかける前に、自重のみで出てくるものを荒ばしりと呼んでいます。
多くの量が取れないため希少価値が高く、高級なものが多いです。
最初に出てくる部分はお米を感じられる荒々しいものが多いのも特徴です。
昔は酒蔵の人しか飲めなかった贅沢なお酒です。
中取り|ほとんどの日本酒に使われている
中取りは日本酒の二番搾り。中汲み、中垂れといった呼び方をされることもあります。
荒ばしりや責めに比べて透明感があり、安定した落ち着きのある味になることが多く「最も質の良い部分だけが凝縮されたお酒」として、贈答品などにも用いられます。
日本酒の品評会にも、中取りが使われることが多いです。
責め|あまり市場に出回らない部分
責めは、日本酒の圧搾濾過によって最後に出てくる、いわば残りかすの部分です。
市場にあまり出回らないため、あまり「責め取り」といった表記の日本酒を見たことがないという方も多いかもしれません。
アルコール度数が高く、雑味の多い日本酒になることが多く、他にはない魅力があります。
雫酒(袋吊り)|味と香りが詰まった最上級の日本酒
もろみをいれた酒袋を吊るし、滴り落ちるお酒の雫だけを集めたものを雫酒と呼びます。
手間がかかる上に圧搾濾過のようにすべてのお酒を絞り出すことはできないため、採れる量が限られた希少価値の高いお酒です。
そこまでする理由はその高い酒質にあります。
お酒の味と香りがギュッと凝縮された最上級の日本酒のひとつと言えるでしょう。
≫日本酒は搾り方で味が変わる!?荒ばしりや中取り、雫酒の「違い」とは?
日本酒の元になる酒母の作り方で変わる
日本酒を作る工程の中で欠かすことができないのが「酒母造り」という工程です。
酒母とは、蒸した米、麹、水を用い、優良な酵母を培養したもので、日本酒のアルコール発酵に欠かせないもののひとつです。
●酒母の作り方による違い
分類 | 酒母の作り方 |
---|---|
生酛仕込み | 自生している乳酸菌を利用して酒母を造る |
速醸仕込み | 乳酸菌を人工的に加えて酒母を造る |
山廃仕込み | 自生している乳酸菌を使うが、山卸という工程を省いたもの |
生酛仕込み|昔ながらの方法で造られた日本酒
生酛仕込みとは、蔵に自生している乳酸菌を使って酒母を造ることを言います。
酒母造りだけで1ヶ月もの時間がかかるため、最近では採用する酒蔵も減ってきていますが、手作りにこだわっている酒蔵ではまだ生酛仕込みが取り入れられています。
乳酸を一から育てていくためか、その味は複雑なものになりやすいとされています。
速醸仕込み|近代的かつ最も一般的な製造法
速醸仕込みは乳酸を人工的に加える、近代的かつ、最も一般的な酒母の製造方法です。
培養期間はおよそ2週間と、生酛仕込みに比べて半分以下で生成することができるため、ほとんどの酒蔵では速醸仕込みを採用しています。
山廃仕込み|生酛に近いけどちょっと違う!?
山廃仕込みは、生酛仕込みと同様に蔵に自生している乳酸菌を使って酒母を造ることを言います。
違いは、米や米麹をすりつぶす「山卸(やまおろし)」という工程を省いていることです。
山卸は冬の寒い時期に何度も酒米をかきまわし、すりつぶす重労働。
さらに、熟練の技術も必要になるため、誰にでもできるという訳ではありません。
山卸を省いても酵素が米を溶かすことが分かってからは、製法のひとつとして採用されました。
製造法の違いが味にどう影響するかは科学的に証明されていません。
その味についても具体的な違いは実証されていませんが、工程をひとつ省くため、まったく同じ味になることはないと言われています。
≫日本酒の元、酒母造りは生酛造り、速醸の2種類。山廃仕込みも要チェック!
季節によって変わる日本酒の呼び方
お米は秋に収穫されるため、そこから始まるのが酒造り。
早ければ冬には新しい日本酒が出始め、次の秋に新しいお米を収穫するまでの間続きます。
●季節による日本酒造り
季節 | 時期 | お酒の名前 |
---|---|---|
冬(新酒) | 12月~2月頃 | 初しぼり |
しぼりたて | ||
春 | 3月~5月頃 | うすにごり |
花見酒 | ||
夏 | 6月~8月頃 | 冷酒 |
ロック | ||
秋 | 9月~11月頃 | 秋あがり |
ひやおろし |
冬酒|新酒の「初しぼり」と「しぼりたて」は違うもの?
毎年12月頃になると、初しぼり、しぼりたてといった日本酒が登場します。
これは、その年に収穫されたお米で作ったいわゆる新酒と呼ばれるもの。
初しぼりはその中でも最初に仕込んで最初に搾った日本酒のことを言い、それ以外はすべてしぼりたてになります。
どちらも新酒であることに変わりはありませんが、初しぼりにはその年の日本酒の完成を祝う、いわゆる「初物」的なおめでたい意味が含まれています。
春酒|お祝いの多い春はおめでたい酒が人気を集める
春といえば入学や就職、転勤など、お祝いの多い季節。そのため「祝い酒」と呼ばれる日本酒が多く出回ります。
さらに、お花見などもあり、桜の花に合わせて薄いピンク色に濁った「ももにごり」というにごり酒にも人気が集まります。
初しぼりのように、春しかとれないお酒というものはありませんが、春には春に楽しまれる日本酒があるようです。
夏酒|冷酒やロックのような涼やかな日本酒が人気
夏の日本酒を夏酒と呼び始めたのは最近のようですが、夏は冷やした日本酒を楽しむ人が増えています。
特に、冷酒に加えて最近は日本酒に氷を入れてロックで楽しむといった飲み方や、大吟醸酒を氷と炭酸水で割って飲む大吟醸ハイボールも人気。
夏は特に、ひと工夫を加えて涼やかな日本酒を楽しむ人も少なくないようです。
秋酒|秋あがりやひやおろしは秋の味覚にピッタリ
秋あがりとひやおろしといえば、秋に出荷される日本酒の銘柄として広く知らてします。
両者がどう違うのかがいまいちピンとこないという方のために簡単に説明すると、
- ひやおろし|ルールが決められている
- 秋あがり|ひやおろし以外の日本酒
こうなります。
ひやおろしは、貯蔵前に火入れをした後、出荷前には火入れをしない、いわゆる「生詰め」の日本酒。
貯蔵前に火入れをすることで安定したまま半年ほど熟成期間を設けて夏を越し「ひや(のまま)おろす」からひやおろしと呼ばれています。
一方、秋あがりは、秋に出荷される生詰め以外の日本酒ということになります。
どちらも熟成期間が長く、秋の味覚に合いやすいまろやかで深い味わいの日本酒が多いと言われています。
≫酒造年度とは?ツウは知ってる!?季節に応じて変わる日本酒の楽しみ方
ラベルによく書かれている「無濾過」とは?
日本酒のラベルなどによく登場する種類の中で、他によく見かける言葉といえば「無濾過」ですよね。
こちらは読んで字のごとく「濾過しない」という意味です。
といっても、もろみを搾って日本酒を出す、圧搾濾過の話ではありません。
日本酒は搾りたてでは淡い黄色の液体のため、活性炭を使って濾過し、無色透明に変える工程を挟んでいます。
これによって、落ち着いた味と柔らかな香り、キレイな無色透明に変化します。
この工程を挟まず、絞ったまんま「濾過せずに出荷される」日本酒のことを無濾過と呼んでいます。
色はやや黄色をまとっていて、米のコクとふくよかな香りを感じられます。
≫無色透明だけじゃない?色のついた日本酒でこそ感じられる醍醐味とは?
ラベルによく書かれている「原酒」とは?
無濾過と同様、よく登場する「原酒」は、絞った酒に水を混ぜてアルコール度数が18~20%となるよう安定させる工程を省いた日本酒のこと。
一般的にはアルコール度数が高く、パンチの強いお酒になる傾向があります。
とは言え、原酒の段階でアルコール度数がもともと18~20%であればその必要はないため、一概には言えません。
ロックや雪冷えなどで飲むと美味しいものが多く、夏酒によく登場します。
≫原酒ってなに?日本酒には「水を混ぜる工程」があるってホント?
ラベルに時々書かれている「おりがらみ」とは?
無濾過や原酒ほどではありませんが、時々登場するのが「おりがらみ」です。
にごり酒は、荒い酒袋を使って澱(おり)を混ぜることによって日本酒を濁らせていますが、細かい目の酒袋を使っても多少の濁りは出てしまいます。
そのため、澱を沈殿させ、澄んだ部分のみを使うのが通常の日本酒なのですが、この工程を省き、おりを含んだまま出荷されるものを「おりがらみ」と呼んでいます。
淡く濁っているので「かすみ酒」といった呼び方をされる場合もあります。
にごり酒ほど濁ってはいませんが、無色透明の一般的な日本酒に比べるとややにごり酒寄りの、コクと旨味を感じられるものが多いと言われています。
これで日本酒の意味がぜんぶ分かる?
いかがでしたか?
これでもう「純米吟醸 無濾過生原酒」と書かれていても、どういう意味なのか分かりますよね。
精米歩合60%以下で、醸造アルコールを含み、活性炭を使った濾過が施されていない、火入れやアルコールの調整がまったくされていない日本酒。
ということが分かるだけで、日本酒の選び方や自分の好みの把握ができやすくなるのではないでしょうか。
ただ、意味が分かったからといってお酒の席でうんちくを披露すると嫌われてしまう可能性がけっこう高いので、日本酒好きの方々の前以外では控えた方がよいかもしれません。